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目指すのは誰もが笑顔になれる場所づくり

SDGsで選ばれるホテルへ。
目指すのは誰もが笑顔になれる場所づくり

2022.06.24

株式会社更紗ホテルズ

離職率40%越え、上がらない賃金、休めない勤務体系…、日本のホテリエの現状は未だ厳しい。インバウンド需要の期待を裏切るように新型コロナウイルスが観光業界を襲った。先の見えない状況が続く今だからこそ、強いマインドセットが必要だ。

ホテルはもっと優しく、サスティナブルな場所へ。宿泊客はもちろんのこと働くホテリエや関係者、同業者もともにウェルビーイング(幸福)な仕組み作りを目指したい。

「SARASA HOTEL」として大阪を中心に4店舗を運営する株式会社更紗ホテルズが、労働環境の見直しから人財育成、キャリア支援、アメニティーグッズのサーキュラーエコノミー(循環経済)など幅広い分野で持続可能な発展に取り組んでいる。

目指すのは『笑顔で 笑顔に』なるホテルづくり。更紗ホテルズ取締役統括本部長の北原信輔氏に取り組みへの思いについて伺いました。

サスティナブルなホテルであるために。人財育成こそ成長の鍵

━━ホテリエのための人財育成に力を入れているとうかがいました。具体的にどのような取り組みをされているのか教えてください。

北原 まず人財育成の前に中小のホテル業界で課題とされる慢性的な人手不足についてお話しさせてください。日本のホテル経営における分業化がその問題の根にあるのではないかと私は考えます。ホテルの所有者と働くホテリエたちがそれぞれ自分のことだけをやれば良いとされていたかつてのホテル経営の仕組みでは、ホテル全体のことを考えようという発想に届きにくい。結果的にホテリエたちはモチベーションを維持できず、言われたことだけを行う生産性の低い状態に陥っていました。生産性の低さは賃金の低さにもつながります。上がらない賃金、人手不足で休めない職場、離職しようと思うのは当然の流れですよね。

ホテルのことを自分事としてもっと捉えてほしい。コロナによってお客様が来るのを“待つ”という旧来のスタイルは一蹴されました。これからはお客様を“呼び込む”ために全てのスタッフがその能力を発揮することが求められています。

更紗ホテルズは独自の育成システムとして入社3、4年目のホテリエが新人研修のプログラムを作成して研修に当たっています。社外の研修講師の派遣ではなく自社内の人財で研修を行うことでスタッフ同士の関係性を構築するとともに、教えることで得られる気づきや成長も感じてもらっています。

━━人財育成を行う中での手ごたえは?

北原 もともと人財育成に取り組むにあたって一番の目的は、女性ホテリエたちの離職を止めたいという願いからでした。女性のホテリエたちは接遇面において優れている方が多いのが特徴です。その一方で、ライフスタイル・ライフステージの変化が仕事に対して大きな影響を与えています。出産や育児によって能力の高いホテリエたちがキャリアアップを叶えられないという現状を多く見てきました。

更紗ホテルズとしては、採用するにあたって彼らの人生に責任を持つことを会社の方針として打ち立て、新人研修などを通して講師業も学んでもらっています。将来的にスキルを身に着けて異業種に転職しても活躍できる人財育成を目指しています。

結果的に昨年の夏に新卒採用から4年目の優秀な女性ホテリエが不動産業界へと転職しました。彼女の上司は「もったいない」「引き止めたい」と思いつつも、新天地での活躍を応援する気持ちで彼女を送り出しました。ホテルはきっと、もっと、成長できる場所になれると私は思います。お客様一人ひとりと向き合うホテル業だからこそ、ともに働くホテリエやスタッフたちともしっかりと向き合うことが何よりも大切です。『誰ひとり取り残さない』。それはSDGsにおける大事な考え方ですよね。

サーキュラーエコノミーで笑顔の好循環をつくりたい

━━その他に取り組まれているSDGsへの試みはありますか?

北原 2022年4月からプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラスチック資源循環促進法)が施行されます。ホテルのアメニティにも変化が求められていますね。一例として更紗ホテルズでは使い捨てのプラスチック歯ブラシから国内産の竹歯ブラシへ切り替えを予定しております。

さらに使い終わった竹歯ブラシを回収し、奈良県生駒市の工房で竹炭に加工して室内の消臭剤や宿泊客へのプレゼントとしてリユースします。竹炭への加工作業は地元の障がい者施設の方々に担っていただいています。施設の方々が笑顔で作業されていると聞いて嬉しくなりました。

このような取り組みを更紗ホテルズだけではなく多くの競合他社にも広めて行きたい。私たちの小さな取り組みでは就労支援の規模は僅かですが、ホテル業界全体が取り組むことで大きな雇用機会を創出できるのではないかと考えています。これからも大切なパートナーとしてお互いの成長を目指していきたい。

多様性の理解は世界標準、あらゆるステークホルダーから選ばれるホテルへ

━━2024年にはアジア地区初となるIGLTA(国際ゲイ&レズビアン旅行協会)総会が、翌25年には大阪万博が開催されます。多様な性、人種、国の方々が大阪を訪れることが予想されます。ホテルとしてはどのように迎えるのでしょうか。

北原 これらのホテルにおいてダイバーシティという考え方はより重要になってきます。私も今まさに学んでいる最中です。実際に同性の方がお二人で宿泊される際に「ベッドが一つですけどよろしいですか?」などとホテリエから尋ねられて泊まるのをためらったというお話を聞いて、これからは多様なニーズに応えられるようなホテル作りが求められていることを実感しました。更紗ホテルズは大阪観光局とともにLGBTQにフレンドリーなホテルとして活動を発信しています。

またベトナム、ネパール、韓国、中国、フィリピン、スリランカ、タイ、台湾、ミャンマー、インドネシアのメンバーや難聴の方など多様な人種、国籍、ハンディを持った方々とともに働くことで異文化理解やコミュニケーションスキルを磨いています。どのようなお客様がお泊りになっても気持ちよく対応できるよう私たちがONE TEAMになることが大切です。

宿泊者からもホテリエが胸につけたSDGsバッジを見て「どのような取り組みをしているの?」と質問されることが増えてきました。お客様の意識も変わってきています。これから選ばれるホテルになるために「我々のSDGsとは何か」をしっかりと理解し、行動に移すことが大切です。

可能性は無限大∞、ホテルの力で笑顔の輪を拡げたい

━━今後の展望を教えてください。

北原 ホテル事業を通して社会貢献を叶えたいと考えています。実は4月にロシアの攻撃を受けて日本に避難したウクライナの方々を当SARASA HOTELが受け入れました。安心して宿泊できる場所を提供し、生活全体の支援を行っています。今後も少しでも助けになればと願い、受け入れを続けていきます。

ホテル事業は、人的なソフトな資源と建物というハードを持ちあわせたとても機能的な存在だと私は感じています。ホテルの持つ魅力的なその力を多くのパートナーシップとともに活用し、どんどん新しいことにトライしていきたい。

『常に考えて行動できるようなホテル』。それが私が思う未来のホテルのあり方です。

まとめ

北原さんの言葉の節々から伝わる熱量の高さ、聞けば元ラガーマンとのこと。誰かのために今、自分ができることを行動する「One for all All for one」。その姿に清々しさを感じた。SDGsは世界規模の大きな目標であり、身近なアクションが見えにくいのが課題だ。更紗ホテルズはその課題に対して具体的かつ明快にアプローチしているからこそ宿泊客にもその思いが伝わるのだろう。大阪はビッグイベントが目白押し、今後も更紗ホテルズのアクションに注目したい。

【ライター情報】イワモト アキト
新聞社にて13年間にわたり政治、行政、スポーツ、文化と幅広く取材。フリーライター&フォトグラファーとして独立し、現在はスポーツ誌やSDGsメディアでの執筆と撮影を中心に活動。

監修者によるコメント

田中 研之輔

法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長

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キャリア論の専門家として私が今、注目しているのは「SDCs」です。SDCsとは、持続的なキャリア形成(=Sustainable Development Carrers)という言葉で、SDGsを駆動させるエンジンとしての人材開発の手法になります。Sarasa Hotelさんの取り組みは、まさにSDCs。社内での人材育成に力を入れるだけでなく、サーキュラーエコノミーの実現、さらに、ダイバーシティ&インクルージョンも実践されています。また、ウクライナからの避難民の受け入れもされています。これからのホテルとは、人々が休まる場所だけはなく、持続的な社会を創造していく生活インフラであり、文化的発信の拠点でもあるのですね。Sarasa Hotelさんのこれからの持続的な取り組みにも、注目しています!大阪への出張時には、ぜひ、利用させていただきます。

田中 研之輔

法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長

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法政大学キャリアデザイン学部・大学院 教授
一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事
Glosa 代表取締役