2022.06.26
“気候変動”という世界が直面する社会課題の突破口として期待される、次世代エネルギー技術「核融合」──。
核融合とは水素などの原子核同士が衝突・融合する際に重い原子核ができ、そこに膨大なエネルギーが生まれる反応のこと。「資源が海水中に豊富にある」「二酸化炭素を排出しない」といった特徴を持つ注目の技術で、世界でも数十社のスタートアップ企業がその実用化に向けて取り組んでいると言われています。
そのような状況において、日本から独自のアプローチで核融合領域に挑戦しているのが京都フュージョニアリング株式会社です。
京都大学の持つ長年の知見を活かして誕生した同社の持つオンリーワンの技術とはどのようなものなのか。そしてそれを通じてどのような社会を実現しようとしているのか。京都フュージョニアリングで執行役員を務める世古圭氏に聞きました。
── 近年メディアなどでも「核融合エネルギー」が取り上げられることが増えてきたように感じます。改めて、どのような社会課題に対する解決策として期待されているのでしょうか。
世古 私たちは、核融合エネルギーがエネルギー問題と環境問題を根本的に解決できる解決策になりうると考えています。エネルギー問題単独であれば石炭や天然ガスなど他にも候補が思い浮かぶかもしれませんが、そこに環境問題が関わってくると一気に複雑性が増すんです。
その点、核融合は発電過程においてCO2を排出しない「カーボンニュートラル」という特徴に加えて、放射性物質量も原子力などと比べても遥かに小さい。核融合が実現すれば、将来的に電気コストが下がるという効果も期待できます。
電気コストが下がると、たとえば培養肉や植物工場などを用いて食糧・食品も安価に製造できますし、水も作れる。「社会のインフラコスト」そのものが急激に下がっていくことにつながります。
── 他のエネルギー技術に比べて、特にどのような点が優れているのでしょう?
世古 核融合は海水から燃料を取り出せるので、事実上無尽蔵の燃料が地上に存在する点は大きなメリットです。たとえば太陽光のように森林への影響や、洋上風力のように海洋や生態系への影響などもありません。再生エネルギーと違って日々の変化や季節変動も考慮せずにすみます。
また核融合はエネルギーを電力に変えるだけではなく、炭素の固定化や水素製造にも活用できます。
エネルギーミックスを柔軟に変化させることができるのも利点です。たとえば太陽光を使える時には発電に太陽光を用いて、その分だけありあまった核融合の熱は電気に使わずに、水素の製造や炭素の固定化にまわしてしまえば良い。産業上のメリットも大きいです。
── 「ベンチャー投資」という観点でも核融合領域の企業にスポットライトが当たるようになってきました。
世古 昨年開催されたCOP(気候変動枠組条約締約国会議)を筆頭に地球環境問題がフィーチャーされる中で、核融合が1つの有効な打ち手である可能性が高いと期待されて資金が集まってきているように感じます。
特に2021年は核融合の歴史においても重要な年になりました。
これまでの20年間における核融合研究は、国の予算による国際研究機関や国家プロジェクト、大学研究が大半を占め、予算も限られたものでした。一方、2021年は1年間で業界に流れる資金がトータル5,000億円ほどまでに伸びました。その多くが国の開発予算ではなく、民間からの投資資金です。それを牽引したのがコモンウェルス・フュージョン・システムズやジェネラル・フュージョンといったグローバルスタートアップです。
── 御社も累計で約17億円を調達しながら研究開発に取り組まれていますが、どのようなアプローチを採っているのでしょうか。
世古 実は先ほど言及したような企業はどこも「プラズマ核融合反応」を起こそうと挑戦しています。これはどういうことか。噛み砕いて説明すると「核融合反応を起こす」工程の研究開発をしているということになります。
核融合は熱を生み出す工程と「核融合反応から熱を生み出し取り出す」工程が存在しており、この2つがセットになって、ようやく全体の核融合炉が完成します。海外の企業は基本的に前者に該当する技術を手がけている一方で、我々は後者の熱を取り出すところに強みがあります。
ここに注力している企業は世界でも当社のみ。自分たちは今のところオンリーワンかつユニークなポジションを築いていると自負しています。
核融合反応を起こす技術が発展したとしても、そこから熱を生み出し取り出す技術がなければ成立しません。F1のマシンに例えるならば、前者は核となるモーターやエンジンを開発している会社、我々はそれ以外のボディやシャーシ、排気系を開発しながら、F1マシン全体を仕上げていく役割のようなイメージでしょうか。
だから核融合反応を起こす技術においてどの企業が突き抜けたとしても、京都フュージョニアリングはその企業とパートナーシップを組んで一緒に事業を展開できるんです。
── 具体的にはどのような技術を開発されているのでしょうか。
世古 細かく分けると20個くらいになるのですが、大きくは3つです。
1つ目はブランケットや熱交換器といった「熱取り出しシステム」になります。ブランケットシステムは核融合反応によって発生した熱の吸収や、(燃料となる)トリチウムの回収・増幅において欠かせないもので、核融合炉1機あたり300〜500億円ほどかかると言われています。なおこのシステムは2〜3年ごとに交換が必要になるため、一度インストールされれば継続的に利益を生み出す重要な収益源にもなるんです。
2つ目は核融合炉の下部に取り付ける「プラズマ排気システム」。(核融合反応時に)燃料の90%は燃焼せずに廃棄されるのですが、そこには不純物も混ざっています。それをいかに分離するかというところが実はとても難しく、しかもそれを低圧環境や高温状態でやらなければならない。そのための燃料回収装置を開発しています。
そして3つ目がジャイロトロンシステムという「プラズマ加熱システム」です。これはどちらかというと熱を生み出す工程のさらに前工程に該当し、プラズマそのものを加熱する装置になります。
太陽であれば約6,000℃で核融合反応が起きているのですが、核融合反応を地球上で人工的に起こすには1.5億℃から2億℃の温度条件が必要になるとされています。ジャイロトロンシステムはそのために欠かせない、超高性能かつハイパワーな電子レンジのようなものです。
京都フュージョニアリングとしてはこのように個々のコンポーネントの開発や販売から、プラント全体の設計や製作、建設にまで取り組んでいる会社と思っていただくとわかりやすいかもしれません。共同創業者の小西哲之教授が約35年にわたって核融合開発に携わる中で培ってきた技術や研究をベースにした会社です。
── 今後の展望を教えてください。
世古 このように当社は日本ならではのモノづくり技術と経験を活かして事業を展開しています。一方で顧客の多くは海外で、アメリカやイギリスなどのグローバル顧客と商談を行っています。日本の技術を活かして世界で戦う日本発スタートアップとして今後も頑張っていきたいと思います。
また私自身、世界を変えるのはスタートアップだという思いもあります。アマゾンやグーグル、テスラ、スペースXといったように、世の中を大きく変革していくにあたってはスタートアップが重要な役割を果たしてきました。新しいイノベーションや産業はスタートアップが切り拓いていくのだと思います。
まさに海外の核融合領域を見ていても、国の研究機関や大企業と呼応しながらスタートアップが出てきている。自分たちも核融合を実用化し、人類に究極のクリーンエネルギーを提供することを目指して事業に取り組んでいきます。
気候変動対策の切り札としても期待を集める「核融合」ですが、一口に核融合技術に挑戦するスタートアップと言っても、実は熱を生み出す技術を開発する企業と熱を取り出す技術に取り組む企業に分かれています。
前者は世界でさまざまなプレーヤーが生まれている一方で、後者は挑戦者が少ない状況。日本の大学発のユニークな技術を軸にした京都フュージョニアリングの挑戦は、まだ始まったばかりです。
坂本 瑞樹
筑波大学 数理物質系 教授, プラズマ研究センター
核融合エネルギー開発は、国際熱核融合実験炉ITERの完成が間近に迫り、EUとともに進めている超伝導トカマクJT-60SAの国内での建設が進むなど着実な進展が見られます。さらに近年、世界の主要国では核融合エネルギー開発に関する独自の取り組みを加速させ、原型炉開発のロードマップが策定されています。このような中で今後極めて重要となるのは、産業界における取り組みや核融合技術の実証です。 京都フュージョニアリングの取り組みは、核融合炉システムの重要な機器・要素を押さえており、特に記事に記載された主要な3つの技術開発は核融合炉システムの鍵となる要素技術です。特に熱を取り出すブランケットシステムの開発に取り組む点は京都フュージョニアリングの独自性が発揮されており、今後の活動が大いに期待されます。
坂本 瑞樹
筑波大学 数理物質系 教授, プラズマ研究センター
2010年度 – 現在: 筑波大学, 数理物質系, 教授
1995年度 – 2010年度: 九州大学, 応用力学研究所, 助教授
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