2022.11.24
「全ての人が限界費用※ゼロで移動できる、持続可能な社会インフラの実現」をビジョンに掲げる株式会社REXEV。
※移動にかかるコストの内、固定費(設備費用等)を除いた変動費(燃料コスト、運転労務費等)
電気自動車(以下、EV)を「クルマ」としてだけではなく「蓄電池」として活用し、統合管理するエネルギーマネジメントを軸とした事業を展開しています。
EVの付加価値を高めながら再生可能エネルギーの普及を推進し、脱炭素社会の実現を目指すREXEVの取り組みについて、創業メンバーであり取締役の藤井崇史氏にお話を聞きました。
——再生可能エネルギーの推進に向け、どのような取り組みをされているのでしょうか?
藤井 太陽光や風力を利用した再生可能エネルギー(以下、再エネ)の発電量は、時間帯や天候により変動するため安定供給が難しく、火力発電などによる補完的な供給調整を必要とするのが現状です。
私たちは、EVの蓄電池としての性質に着目し、再エネを有効利用するための調整⼒としてEVを活用した電気の需給管理を行い、持続可能なモビリティ社会を目指しています。
EVを調整力として活用するためには、通常の車両管理やEVの充電管理に加えて、再エネを優先する充電制御、電力需給ひっ迫時のEVからの給電制御など、エネルギーマネジメントを行う統合的なシステムが必要となります。
REXEVは独自に「eモビリティマネジメントプラットフォーム」を開発し、エネルギーマネジメントを軸に、EVを活用した再エネ普及・推進の取り組みを進めています。
プラットフォームを利用したEVのカーシェアリング事業“eemo(イーモ)”は、小田原・箱根エリアを中心に展開しています。また、私たちのシステムやノウハウをパッケージ化して提供する、EVカーシェア事業の立ち上げ支援サービスも行っています。
社用車や公用車のEV化支援を行う“Flemobi(フレモビ)”事業では、EV導入によりエネルギー供給の仕組みが変わることで、電気代や充電のタイミング調整に対する懸念を抱える事業者に向け、EVの導入から運用の効率化までトータルでサポートするシステムを提供しています。
——REXEVの創業メンバーはもともとエネルギーマネジメントを専門とされていたそうですが、エネルギーマネジメント単独ではなく、EVを切り口とした理由や経緯について教えてください。
藤井 従来、電気は供給側が需要側に合わせてコントロールするものでした。しかし、社会的な命題である脱炭素社会実現のためには、自然環境に左右される「気まぐれな電気」である再エネに対して、需要側がその変動に向き合う必要があります。エネルギーマネジメントを専門としていたからこそ、再エネの普及には、需要側での利用における柔軟性 が必要不可欠だと実感しました。
再エネの需給管理を行うにあたり、検討当時は 定置用蓄電池のコストが高く、ビジネスとして展開するには採算が合いませんでした。EVの車載電池は、定置用蓄電池と比較し、4倍の容量で価格は2倍弱と、「蓄電池」として考えると非常にコストパフォーマンスに優れています。さらに、EVには「クルマ」としての利用価値もあります。
EVを調整力として活用する難しさは、「動く」ことです。車の動きを管理・予測することで課題をクリアし、車として利用しながら電気のコントロールも行うことができれば、エネルギーマネジメントを需要側で行えるリソースとしてEVを活用できると考え、EVに大きな可能性を感じました。
現状では、EVの「モビリティ」としてのニーズを優先する方が、「蓄電池」として利用するよりも経済的な価値は高いのですが、今後、電気の需給ひっ迫が深刻 になった場合には、経済的な合理性が逆転する可能性があると考えています。
また、再エネ推進のカギとなる「蓄電池」としてEVを活用するためには、EVをマーケットにさらに浸透させる必要性も感じました。EV普及の課題として車両価格が高いことが挙げられますが、まず、「所有」よりもハードルの低い「シェアリング」からスタートし、ガソリン車の全体数を減らすことで脱炭素化につなげる意図もあり、EVシェアリング事業の展開に至りました。
——2020年6月から小田原・箱根エリアで展開するカーシェアリングサービス“eemo”は、サービス開始から2年経過しました。反響や手ごたえはいかがですか?
藤井 小田原市の公用車や地元企業の営業車として、また駅周辺に設置したステーションで、現在50台弱のEVをeemoで運用中です。EVの電源には、主に 「電力の地産地消」を行う湘南電力を通じて供給し、再エネを最大限利用しています。
小田原市は2012年以降、再エネ導入を促進する政策をとり、地元企業の共同出資により太陽光発電の会社が設立されるなど、持続可能な街づくりに積極的に取り組んでいます。行政も地元企業も「再エネ推進」という同じビジョンを持ち、協力いただける基盤のある小田原市で事業をスタートしました。
サービスの構想段階では、観光需要を大きく見込んでいたのですが、現状は、コロナ禍の影響で観光利用よりも、地域住民の利用がメインです。もともと地域特化型の運用を意識していたので、住民のみなさんに地元に根ざしたサービスとして認識いただけたことは良かったと思っています。サービス開始当初は、なかなか認知されずに苦労しましたが、私自身が宣伝担当としてイベントなどで積極的に広報活動を行うことで、地元の方々にも浸透し、地域全体のSDGsや再エネに対する意識の向上につながっている手ごたえは感じています。
脱炭素化というグローバルな社会課題に対して、エネルギーマネジメントというマクロな活動をしつつも、小田原・箱根エリアという限定されたマーケットでのミクロなビジネスをミックスした取り組みを行っていることは、私たちREXEVの強みであり、おもしろいところだと思っています。
——EVカーシェアリングに取り組む中で、再エネの普及にはどのような課題を感じていますか?
藤井 エネルギーは目に見えない要素が大きく、ユーザーに付加価値を感じてもらうのが難しい商材です。例えば、消費者が電気を使用する際、その由来が太陽光か原子力か火力なのか、わかりにくいので、理屈では再エネが良いとわかっていても、消費者心理としては、コストが安い方を選択することが多くなってしまうのが現状の課題のひとつです。
エネルギーに対して、「クルマ」は消費者にわかりやすく伝えられるという利点があります。
EVのシェアリングを通じて、EV特有のパワーや静穏性などの魅力を体感し、環境負荷の低い電気を使用する体験をユーザーに意識してもらうことで、再エネの良さをエモーショナルに訴求できます。
また、eemoのアプリでは、EVの再エネ利用率を表示する機能を搭載しました。エネルギーの「見える化」で、消費者が再エネをより身近に感じ、環境やコストの負担がないクリーンな移動の快適さを実感できることを意識しました。
一方で、EVは一般的な家電製品と比較して数十倍程度の電気容量を必要とするデバイスであるため、適切な充電管理をしないと、電力系統に悪影響を及ぼしかねない懸念もあります。ハードとしてのEV普及が進む中、再エネ利用拡大のためには、私たちが得意とするエネルギーマネジメントというソフト面の強化は一層求められていると感じています。
——今後の展望について教えてください。
藤井 REXEVでは小田原市以外にも、様々な自治体と連携した取り組みを行っています。2030年のカーボンハーフという目標に向けて、施策として公用車の電動化は必須になると思いますが、地域への貢献も兼ねるカーシェアリングをひとつの選択肢ととらえる自治体に対し、今後、さらにサービスの提供と拡充をはかりたいと考えています。
また、REXEVはネットワーク内にあるEVを電気の調整能力を供出する蓄電池として活用する、VPP(virtual power plant)「仮想発電所」と呼ばれるエネルギーマネジメント機能を提供しています。多数のEVを集約管理し、ひとつの発電施設として制御するVPP機能をより強化し効率化するには、数千台以上の規模が必要となるため、カーシェアリング事業に加え、法人への社用車電動化とシステム導入支援をさらに進めていきます。
EVをエネルギーリソースとして効率的に利用することで、再エネが普及するという好循環をさらに加速したいと考えています。
——REXEVの考えるeモビリティの未来像をお聞かせください。
藤井 将来的には、普通乗用車だけではなく、バスやタクシーなどの公共交通も含め、あらゆる車両の電動化が進むことを想定しています。また、自動運転技術がさらに発展すれば、エンジンよりもモーターの方が制御しやすい特性があるため、エネルギー供給のタイミングを自動化するなど、車両をよりコントロールしやすくなると期待できます。
私たちは、モビリティの電動化と自動運転技術に、再エネを活用した効率的なエネルギーマネジメントを組み合わせることで、「持続可能なモビリティ社会」の実現を目指しています。
地域で作られた再エネを最大限活用したeモビリティの普及により、経済的にも、環境にも、負担をかけずに楽に移動ができる交通システムを構築し、エネルギー調整が自由にできる「安心安全で、環境負荷のない脱炭素社会」の実現に向けた取り組みを一層進めていきたいと考えています。
EVは、メーカーによる開発競争や消費者の環境意識の高まりにより、今後、さらなる販売台数の増加が見込まれています。
一方、脱炭素社会実現のためには、走行時のCO2排出量削減だけではなく、EVの動力源に再エネなどのゼロエミッション電源導入が必須とされる中、再エネの利活用には多くの課題が残されています。
EVを活用した先進的なエネルギーマネジメントで再エネの普及を推進するREXEV。カーボンニュートラル時代の新しいモビリティ社会実現に向けた取り組みの広がりが期待されます。
【ライター情報】幸田さおり
東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。生活者目線でわかりやすく伝えることをモットーに、サイエンス領域や時事ニュース解説記事などの執筆を中心にライターとして活動。
田村 滋
明治大学 総合数理学部ネットワークデザイン学科 専任教授
日本は2050年にカーボンニュートラルを達成するために、途中の2030年には再生可能エネルギーを電気エネルギー全体の4割に引き上げることを目標としています。そこで、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーをさらに設置しなければなりませんが、エネルギーの発生(発電)と消費(需要)を時々刻々バランスさせることが益々難しくなります。一方、自動車においては2030年代には販売する新車は全て電動車にする目標としており、EVが今後急速に増えることが予想されます。そのEVバッテリーを用いてエネルギーをうまく貯蔵/放出(充電/放電)できれば、エネルギーのバランス問題解決に貢献することができます。REXEVの取り組みは、正にこれを実現しようとしているものです。これはカーボンニュートラル達成のための必要不可欠な取り組みであり、今後の活動が大いに期待されます。
田村 滋
明治大学 総合数理学部ネットワークデザイン学科 専任教授
2013年年度 – 現在:明治大学, 総合数理学部ネットワークデザイン学科, 専任教授
1983年 – 2013年:株式会社日立製作所 勤務
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