2022.09.29
まだ食べられるのに廃棄される食品、食品ロス。最新の統計(2020年度推定値)によると、日本では約522万トンの食品ロスが発生しています。これは、国民一人当たり、毎日おにぎり1個分(約113g)の食べ物を捨てている計算になると言われています。
ZERO株式会社が運営する無人販売機「fuubo(フーボ)」は、規格外品や1/3ルールなどによりまだ食べられるのに捨てられてしまいそうだった食品を扱っています。もったいないだけではなく、環境負荷も大きい食品ロスを画期的な方法で解決し、SDGsの目標達成に貢献するZERO株式会社の代表取締役 沖杉大地さんにお話を伺いました。
―食品ロスの問題解決を目指したきっかけを教えてください。
大きなきっかけは、学生時代のバックパック世界一周中での経験です。訪問したのは、アフリカ、中南米、東南アジアなどで、経済的に豊かではない国も多く含まれていました。特にアフリカ各国では、路上に立っている子どもたちに、「Give me money(お金をください)」と言われる日々でした。子どもたちにお金を渡すことについては賛否両論あることは理解した上で、私はやらない偽善よりやる偽善という思いから、お金を渡していました。すると、お金を受け取った子どもたちは、一目散に後ろで待っていた大人にお金を渡すのです。その様子には常に違和感を抱いていました。
ある時、持っていたビスケットを子どもたちに渡したことがありました。すると今度は、笑顔で「Thank you!」と言って受け取り、とても喜んでくれました。お金を渡した時には見られなかった笑顔で、目の前の子どもたちは、今日食べられるものがほしいのではないかと思った瞬間でした。
日本に帰国後、コンビニエンスストアや飲食店でのアルバイト経験を通して、賞味期限が残っているのに廃棄されるものや、まだ食べられるものが捨てられる現状を目の当たりにして、食品ロス問題の重大さを痛感しました。まだ食べられる食べ物が捨てられている一方で、世界一周中に出会った子どもたちは今日食べられるものを探している状況に、地球の食の不均衡を感じると共に、この問題を解決したいと強く思うようになりました。
このような思いに至ったのは、自分自身のバックグラウンドも関係していると思います。実家はうなぎ店を営んでおり、幼い頃に父から「うなぎは皮も骨も内臓もすべて無駄にすることなく、食べられる食材だ」とよく言われていました。私の価値観の根底には、食べ物を無駄することなく頂きたいという思いがあるのだと感じています。
―2017年に起業後、fuubo(フーボ)の開発にすぐに取り組まれたのでしょうか。
fuubo(フーボ)に至るまでは、様々な事業を模索しました。起業したばかりの頃、規格外野菜の廃棄を減らしたいという思いで、農家の規格外野菜をECサイトでの販売を始めました。しかし、宣伝や集客のためのマーケテイング費用がかさんでしまい、軌道に乗せることができませんでした。
次に開発したのは、「No food loss」というアプリです。コンビニエンスストアで食品ロスの情報を発信していましたが、アプリ利用者は「食品ロスがある」という情報を受け取るのみでは、なかなか購入に至らないことが分かりました。飲食店やコンビニエンスストアで働いた経験があれば、食品ロスが発生している様子を想像できると思います。しかし、多くの方にとって、食品ロスはもったいないと認識していたとしても、実際にどのくらい発生しているのか、どんな商品が捨てられてしまいそうなのか想像しにくいもの。食品ロスが可視化されないと、その先のアクションにつながらないことが明らかになりました。
「No food loss」での反省を活かして、食品ロスを見ることができ、受け取れる販売場所が必要だと考える中で、スウェーデンのスタートアップ企業が開発した、「Karma Fridge(カルマ冷蔵庫)」を知りました。スーパーマーケットやレストランで売れ残り、捨てられてしまう食品を割引価格で買える仕組みで、アプリを登録して、スーパーマーケットやレストランに設置されている「カルマ冷蔵庫」から欲しい商品を購入できるものでした。これは面白いと思い、同じような冷蔵庫を設置できないかと検討を始めました。試行錯誤の末、より使いやすく変えて誕生したのがfuubo(フーボ)です。冷蔵庫メーカーのフクシマガリレイ社が私たちの思いに共感してくださり、fuubo(フーボ)の開発が実現しました。
―fuubo(フーボ)は、どのような点がユニークなのでしょうか。
食品ロスの販売で利益を出そうとは思っていない点です。食品ロスとなった時点で、売ることではなく、食べてもらうことが目的だと考えており、最終的にはすべての商品を無料(0円)で提供できるようなビジネスモデルを構築したいと考えています。私たちの会社名のZERO株式会社も、食品ロスを「ゼロ」にしたい、食品ロスを「ゼロ」円で提供したいという意味を込めています。
―難しさを感じている点があれば、教えてください。
ユーザーの食品ロスに対する意識を形成することです。食品ロスが課題になっていることは分かるが、食品ロスを実際に見たことをない人が大半を占める中で、食品ロスは安全で、美味しく食べられるものだという認識はまだまだ広がっていません。fuubo(フーボ)を通して、食品ロスは街中で売っていて買える、美味しく安全に食べられるということを、広く発信していきたいと思っています。
―fuubo(フーボ)は、SDGsのどのような目標の達成に貢献しますか?
最も近いのは、「つくる責任つかう責任」の中で明記されている、食品ロスのターゲットです。ZERO株式会社のヴィジョンは「地球上の貧困をゼロにする」です。そのため、「貧困をなくそう」と「飢餓をゼロに」の目標達成にも貢献できるよう、ミッションを掲げています。食品ロスを解決することで、その先に、貧困や飢餓のない世界を実現したいと思っています。食品ロスをもう一度流通させて、ビジネスとして成立させて、しっかりと利益を生み、その利益を社会課題の解決や困っている人たちへ還元したいという思いです。
さらに、「気候変動に具体的な対策を」や「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」への関連もあります。食品ロスを防ぐことは、食品ロスを焼却する際のエネルギー使用やCO2排出の抑制につながります。
―fuubo(フーボ)の導入は様々な企業や自治体へと広がっています。手ごたえを教えてください。
自治体や企業との相性が良いと感じています。SDGsの可視化できることが好評です。特に企業は既存の事業を、SDGsの目標に当てはめる傾向が強いと思いますが、すでに違う目的で進めていた事業を、あとからSDGsの目標と紐づけるのは順番が逆だと感じていました。fuubo(フーボ)は、社会課題の解決やSDGsへの貢献を目指してビジネスデザインしてているため、食品ロス削減や二酸化炭素削減率の見える化が一気に実現できるから導入したいととお声をいただいています。また、当社が、商品の仕入れ・納品~管理~お客様のお問い合わせまで、一気通貫で対応している点も喜ばれています。
―fuubo(フーボ)の今後の展開を教えてください。
まずはfuubo(フーボ)を全国に導入することです。将来的には地方などでも積極的に導入を進めていきたいです。一部地方では、人口減少などによって、商店街やスーパーマーケットが廃業、交通機関の衰退が相次いだ結果、買い物へのアクセスが限られている地域も多くあります。そのような地域にfoobo(フーボ)を導入することで、買い物へのアクセス改善にも貢献できると考えています。
さらに、海外展開も計画していて、日本と同じようなスピード感を持って、展開していきたいと考えています。特に東南アジアなどの新興国では、今後の経済発展の中で、CO2排出と食品ロスの問題が顕在化することが予想されます。オンライン決済は海外の方が一般的になっていることから、fuubo(フーボ)も浸透させられるのではないかと感じています。設置台数としては、今年度は国内200台、今後3年以内に国内1,000台、さらに今後5年間では国内・国外で計3,000台の導入を目指しています。
設置場所の拡大と並行して、fuubo(フーボ)の新たな活用方法の提案も進めています。従来は、食品ロスになってしまった商品を扱っていましたが、今後は、食品ロスが出ないよう製造された商品の売り場としての活用も広げていきたいと思っており、すでに、規格外品を缶詰商品にした会社との連携や、規格外野菜を活用したレトルトカレーを製造している会社と様々な展開を計画しています。特徴ある商品は地場の中小企業で製造されていることも多く、販路を見出すのに難しいというお話もよく聞きます。そこで、fuubo(フーボ)を無人販売機として活用し、製造する人も、購入する人も、さらにfuubo(フーボ)を管理する私たちもハッピーな気持ちになれる仕組みを築きたいと思います。
―fuubo(フーボ)で得た知見や課題を活かして、挑戦したいことはありますか?
自分よりも若い世代への教育です。fuubo(フーボ)の利用者の平均年齢は48歳で、Z世代の利用が少ないことが分かっています。おそらく、50代前後の方々は親の世代のもったいない精神の影響を受けた世代で、食品ロスを買うことに抵抗が少ないのでないかと推測しています。ある調査では、若い世代含めほとんどがSDGsについて詳しく理解している一方で、SDGsから発生するビジネス的なサービスに関しては、ほとんど利用されていないという結果もありますひとりでも多くの若い世代が、SDGsへの貢献や社会解決に向けて、より積極的なアクションできるよう働きかけていきたいと思っています。
また、中高生、大学生に対して世界でどのようなことが起こっているのか、自分自身の体験を踏まえて伝える活動もしていきたいです。特に最近は、新型コロナウイルスの影響で、私が学生だった頃のように気軽に海外に行くことができていないと思います。食品ロスの解決は、もったいないを解決するだけではなく、地球の問題を解決することにつながるということまで、落とし込んで伝えたいと思っています。
「もったいないを循環させて、優しい社会をつくり、地球上の貧困をZEROにしたい。」という、株式会社ZEROの社名にも込められた、沖杉大地さん強い意志を感じました。もったいないのその先を見据え、SDGsに確実に貢献していく、fuubo(フーボ)のさらなる広がりに注目です。
【ライター情報】鐘ヶ江美沙
フェアトレードについて知ったことをきっかけに世界の格差・貧困問題に関心を持ち、国際NGOでのボランティアなどに携わる。大学卒業後は日本企業の統合報告書の企画制作などに従事。現在はイギリスの大学院でサステナビリティと経営を専攻中。
真鍋 希代嗣
京都大学 産官学連携本部 イノベーション マネジメント サイエンス起業・教育部 特任准教授
日本の食料廃棄は国連世界食糧計画(WFP)が世界で援助する食糧の2倍に相当します。まだ食べられるのに廃棄される食品ロスは、日本では「もったいない」と倫理的に問題視されてきました。しかし最近ではそれだけの問題ではなくなってきています。国際的に食品ロスが注目される理由の一つは、その地球環境に与える影響の大きさです。英オックスフォード大学の研究者で構成するNPO、Our World in Dataは、世界の温室効果ガス排出量の6%が食品ロスによるものと推定しています。これは飛行機による排出量の約3倍です。農林水産省によれば、国内の食品事業者からの食品廃棄物は約9割が飼料などに再利用されますが、家庭からの食品廃棄物の多くは焼却処分されてしまいます。消費者の意識変化が求められる中、fuuboの食品ロスの見える化への取り組みは注目です。人は自分で買うときにその商品について注意深くなるため、fuuboの提供価値が社会に浸透するものと期待しています。
真鍋 希代嗣
京都大学 産官学連携本部 イノベーション マネジメント サイエンス起業・教育部 特任准教授
2022年度ー現在:京都大学 産官学連携本部 特任准教授
2018年度ー2021年度:マッキンゼー・アンド・カンパニー
2018年度:世界銀行コンサルタント
2016年度:Ramen 4Q経営者
2013年度ー2015年度:JICAイラク事務所
2010年度ー2013年度:プライスウォーターハウスクーパース
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