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旅を通じて豊かさを届けたい。TABIPPOが目指す新たな観光のあり方「サステイナブルツーリズム」とは

2022.11.21

株式会社TABIPPO

サステイナブルツーリズムという言葉を知っていますか?観光地の本来の姿を持続的に保てるよう、エリアの開発やサービスの設定を行うことを意味します。日本でも京都などでオーバーツーリズムが問題視されていますが、いま世界中で観光地の自然環境や住民の暮らしを守る観光のあり方が問われています。

新型コロナウイルスの流行も終わりが見え始め、私たちの生活に旅行が戻りつつある今、旅行者と観光地に求められるものは何でしょうか。「旅で世界を、もっと素敵に。」を理念に掲げ、月間200万人が利用する旅の総合WEBメディア「TABIPPO.NET」を運営する、株式会社TABIPPOのセールスディレクター、多葉田 愛氏と西脇 謙志氏に話を聞きました。

「持続可能な観光」は、コロナ後のニューノーマルになる

——まず、サステイナブルツーリズムを始めたきっかけを教えてください。

多葉田氏:TABIPPOは、創業者が学生時代に経験した世界一周旅行がきっかけでスタートしました。「日本の若年層に旅の魅力を広めたい。旅を通じて世界を豊かにすることに貢献したい」という想いで2010年に学生団体として設立し、2014年に株式会社化しています。

私たちは、「旅を通じて人は利他的に変わっていく」と考えています。さまざまな自然や文化に触れて視野が広がることで、大きな価値観の変容をもたらすのが旅の魅力です。そのため、よくあるパッケージ型の旅行を販売するのではなく、Z世代やミレニアル世代といった若年層に向けて、旅を機軸に据えたイベントを開催したり、キャリア事業や教育事業を展開しています。

株式会社TABIPPOは、旅を機軸に据えたイベントを開催したり、キャリア事業や教育事業を展開

若年層に旅の魅力を伝えると同時に重視しているのが、「観光地にとって持続可能な観光のあり方」です。訪れた人だけでなく、観光地の自然や地域住民の暮らしを豊かにすることが今後ますます求められると考えています。

というのも、新型コロナウイルスの影響で、私たちの価値観は大きく変わりました。キャンプがブームになるなど自然に目を向けたり、人生の意義や目的を改めて考え直した若年層も増えています。私たちのイベントに参加してくれた方の発言や、SNSの発信内容を見ても、観光に対する意識は間違いなく変わっていると感じます。サステイナブルツーリズムや、「責任ある観光」を意味するレスポンシブルツーリズムは、コロナ以降の新しい価値観に合致したニューノーマルな観光になるでしょう。旅行者と観光地の両方が変わるべきタイミングだと思います。

70年代からサステイナブルツーリズムに取り組むハワイ

——TABIPPOでは、ハワイ州観光局とタッグを組んだ企画を実施されているそうですね。

多葉田氏:会社の設立以来、ハワイ州とはずっと協力関係にあります。というのも、ハワイはサステイナブルツーリズムの先進国なのです。観光はハワイにとって非常に重要な産業ですが、世界中からあまりにも多くの観光客が訪れてしまい、地元住民を無視した観光スポットの増加やゴミによる環境破壊が問題になっていました。

これに対し、ハワイ州観光局は1970年代から、地域住民と環境にとってもプラスになる旅行を推奨してきました。「Mālama Hawaiʻi(マラマ ハワイ)」、日本語にすると「ハワイを思いやる心」というビジョンを掲げ、SDGsが注目される以前からさまざまな施策を続けてきました。

ハワイ州との協力関係

2022年10月には、「Mālama Hawaiʻi」を体験するモニターツアーとイベントを掛け合わせたプログラム「Mālama Hawaiʻi Week 2022」を開催します。現地で体験できるアクティビティも環境に配慮しており、ローカルフードなど本物の文化に触れることができる内容になっています。一般的なツアーとは異なり、予定がぎっしり詰まっていないため、参加者が自身の興味に応じてプランを選べるのも特徴です。特設サイトには、旅行中に心がけるべきアクションを具体的に掲載するなど、責任ある観光を実践するための知識を盛り込みました。

今回のツアーには、一般の参加者に加えてインフルエンサーを10名ほど招待しています。多くの人に活動内容を知ってもらうためにインフルエンサーの存在は欠かせませんが、私たちが重視しているのは、フォロワー数ではなく発信内容です。私たちの考えに共感してくれる方、親和性が高い方にお声がけすることで、施策との一貫性を持たせることができると考えています。

日本の国立公園が存続するために

西脇氏:ハワイ州観光局との活動を通じて得たサステイナブルツーリズムのメソッドを日本でも応用しようと考え、北海道から沖縄まで全国に展開しています。近年、環境省や観光庁もサステイナブルツーリズムを積極的に推進しており、公募などを通じて国立公園に携わる機会も増えてきました。

国立公園には、サステイナブルツーリズムという概念が広まる以前から「自然を守って未来に残す」というコンセプトがあります。しかし、豊かな自然環境を維持するには、当然ながらお金がかかります。

その土地の自然や文化を受け継いできた住民の方々からすれば、「観光客がたくさん来て大量消費して帰っていく」という従来のマスツーリズムは受け入れがたいでしょう。一方で、一般の人が「行きたい」と思えるようなPRをしなければ、ビジネスとして成立しません。旅行者の価値観に合致しており、財源も確保できるという点で、サステイナブルツーリズムは非常に有効だと考えています。

地域によっては、「サステイナブルツーリズムを始めたいが、何をしていいかわからない」というケースもあります。その場合は、ヒアリングだけでなく実際に私たちが旅人として現地を訪れ、地域ごとの課題や強みを整理します。情報収集はもちろん大切ですが、やはりその場で感じたことを活かした企画が重要だと思います。

サステイナブルツーリズム

——これまで、ゼロカーボンパーク第1号として登録されている長野県の乗鞍高原や、北海道の阿寒摩周国立公園でサステイナブルツーリズムを実現されてきました。

西脇氏:乗鞍高原では、サステイナブルツーリズムをテーマに、3泊4日のモニターツアーを実施しました。間伐材のリサイクルや外来種の駆除など、すでに持続性を意識した取り組みをしている地域だったので、そうした施策を体験しながらサステイナブルな地域としてのブランディングを考えるツアーです。最終日にプレゼンテーションがあり、一定の知識が必要だったことから、私たちが教育事業として展開している学校「POOLO」の受講者や卒業生に参加してもらいました。

多葉田氏:阿寒摩周国立公園では、道内7空港を運営する北海道エアポートと連携し、若年層に向けたモニターツアーを実施しました。圧倒的な大自然やアイヌ文化を肌で感じてもらい、複合的な資産を継承するために何ができるかを考えるプランです。訪れる季節によって体験が変わるので、次回以降はツアー販売も検討しています。

地域ごとに課題や強みは異なるため、施策はすべてオーダーメイド。その土地の自然や文化、地域住民としっかり向き合い、ベストな内容を考えています。

若年層に向けたモニターツアー

——今後の展望を教えてください。

西脇氏:施策が一過性のものではなく、継続的な取り組みになるように支援を続けていきます。旅を通じて参加者同士のつながりができるように支援していることもあり、私たちのツアーはリピーターが多いのが特徴です。何度でもその地域を訪れて、本当の意味で持続可能な観光地を作っていってほしいと思っていますし、その成功例を新しい観光地に広げていきたいですね。

多葉田氏:TABIPPOは、旅を通じて幸せになる、利他的になるというポジティブな効果を信じています。「自分だけが楽しめればいい」という価値観ではなく、持続可能な観光のあり方を考える意識を持った旅行者が増えることで、観光地も変わっていくでしょう。両者にとってプラスになるような施策を今後も考えていきたいと思います。

まとめ

2020年、それまで当たり前だった旅行は、突然遠いものになってしまった。長い自粛期間を経て、旅行が身近なものに戻りつつある今、コロナ前とは求めるものが変わった人は多いのではないだろうか。旅行者と地元住民が手を取り合って、その地域だから得られる感覚や知見を活かして未来を考える。あらゆるものがオンライン化していく時代において、オフラインの新たな可能性を提示するのは若年層かもしれない。

【ライター情報】浅野 翠

早稲田大学文学部卒業。人事として新卒採用や制度企画に携わったのち、広報・ライターに転身。現在は上場企業の広報として勤務する傍ら執筆を行う。興味のあるテーマは、キャリア・健康・SDGsなど。

監修者によるコメント

古屋 秀樹

東洋大学 国際観光学部 教授 / 持続可能な観光指標に関する検討会委員、日本版持続観光な観光ガイドラインアドバイザー(観光庁)

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旅行において「持続可能性(サステナビリティ)が非常に重要」との回答が8割を超えたレポートもみられます。「ゴミやエネルギー消費の量を減らす」といった環境面に加えて、社会面、経済面を含めたトリプルボトムラインを保持することが、持続可能な地域づくりで喫緊の課題といえます。 このような中で、TABIPPOの取り組みは、訪れた人だけでなく、観光地の自然や地域住民の暮らしを豊かにする「持続可能な観光のあり方」を探求しており、大変興味深いものです。脱炭素の消費行動で重要な行動規範として「利他性」が重要なキーワードになるとともに、Z世代や20~40代の女性で、「環境に配慮されたモノに対して格好よい・カワイイなど、商品としての魅力」を高く感じるともいわれています。他者へのコミットメントに「共感」できる付加価値が高い旅行情報が掲載される「TABIPPO.NET」の今後の取り組みが注目されます。

古屋 秀樹

東洋大学 国際観光学部 教授 / 持続可能な観光指標に関する検討会委員、日本版持続観光な観光ガイドラインアドバイザー(観光庁)

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2008年 – 現在:東洋大学,国際観光学部,教授
2003年 – 2007年:東洋大学,国際地域学部,准教授
1997年 – 2003年:筑波大学,社会工学系,講師