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フードロスも障がい者雇用もあきらめない。「三方よし」な農福連携のカタチ

2022.10.08

株式会社オキス

農福連携(のうふくれんけい)という言葉を知っていますか?労働人口が減り高齢化が進む農業分野、障がい者の就職先確保等に迫られる福祉分野が協力し、互いの課題を解決する取り組みです。近年では障がい者だけでなく、高齢者・生活困窮者・ひきこもり・犯罪者などの立ち直りや社会参画支援としても注目を集めています。

鹿児島県の大隅半島に本社を構える株式会社オキスでは、福祉施設や行政、近隣の飲食店と連携し、それまで廃棄されていた規格外のじゃがいもを商品として出荷。その売上を障がい者の給与に充てていると言います。目指すのは、農業分野だけ・福祉分野だけでなく、ビジネスの力で関わる人すべてがWin-Winになる仕組み。株式会社オキス社長の岡本孝志氏、同社取締役の岡本雄喜氏に取材しました。

鹿児島が誇る野菜。そのすべてを食卓へ

——まず、農福連携に注力することになったきっかけを教えてください。

岡本孝志氏:「農家が育てた野菜をすべて商品化したい、規定のサイズでなくても食べられる野菜はすべて出荷したい」という思いが農福連携、そして私たちのメイン事業のスタートです。

株式会社オキスには関連会社で株式会社岡本産業という運送業をしている会社があります。私が株式会社岡本産業の代表を先代から引き継いだ際、輸送物として鹿児島の特産品である野菜に目をつけました。しかし、鹿児島は本土の最南端にあるため、東京まで運ぶと、商品である野菜より物流費用の方が高くなります。そこで野菜を乾燥したり粉砕することで、輸送コストを抑えようと考えました。そこで、設立した会社が株式会社オキスです。乾燥・粉砕することでふぞろいの野菜も活用でき、野菜の栄養価も高まります。もともと乾燥野菜は家族のための保存食、昔ながらの知恵(この知恵をオキスでは「おばあちゃんの縁側文化」としている)なのです。

農福連携に取り組み始めたのは、8年前に「NPO法人夢来郷たかくま」を設立したことがきっかけです。そして、2021年5月に大隅半島ノウフクコンソーシアムが立ち上がりました。農業関係者、経営者、福祉関係者、行政関係者が集まり、それぞれが抱える問題を解決できないか模索を始めました。私は副会長として、課題の洗い出しや企画、実行に携わっています。その中で始めたのが、障がい者の方に規格外の小さなじゃがいもを収穫してもらう取り組み「小いもプロジェクト」です。

年間25トン!廃棄されていた規格外のじゃがいも

年間25トン!廃棄されていた規格外のじゃがいも

——なぜ、小いもに目をつけたのでしょうか。

岡本孝志氏:じゃがいもは大型機械で収穫するため、規格外の小さいものは機械から自動的に弾かれてしまいます。そうして廃棄されてしまう小いもは、弊社だけでも年間25トンに及びます。「そのままお弁当に入る大きさなのにもったいない。どうにかしたい」とずっと気になっていましたが、農家の人材不足を理由に手をつけられずにいました。じゃがいもは雨に濡れるとすぐ腐ってしまうため、梅雨前の収穫が必須なのですが、それを担える人手がない。そこで大隅半島ノウフクコンソーシアムに、農福連携プロジェクトとして解決できないかと持ちかけ、福祉施設と連携してプロジェクト化することを考えたのです。

1回の収穫につき、参加する障がい者の方は延べ20名近く。小いもの収穫から仕分け、洗浄など、販売に至るあらゆる工程をできるだけ担ってもらっています。勤務時間は人それぞれで、集中力が続く数時間、体調が良い午前中など、福祉施設側でその人の特性に合わせてスケジュールを調整してくれています。他にも、農作業のレクチャーを施設側でも担えるようにするなど、農家側の負担が大きくなりすぎないよう工夫しています。

収穫した小いもは、地元の飲食店やレストランに買い取っていただき、売上金を障がい者の給与に充てています。店舗ごとに新メニューを開発したり、「じゃがいもフェア」を開催してSNSでシェアしてくれるなど、初回のため小規模ではありましたが十分な手応えを感じることができました。

今後はこの取り組みをもっと大きくしようと企画しています。最近も関東から小いもを探しているお客様が視察に来てくださり、さらに大きなビジネスにつながる可能性を秘めていると確信しています。また、ごぼうや唐辛子など、少しずつ障がい者の方に働いてもらう野菜の種類を増やしているところです。

どこかが無理をしても続かない。「三方よし」だからこそ持続可能

どこかが無理をしても続かない。「三方よし」だからこそ持続可能

——農業と福祉双方の課題を解決できる糸口が見えてきたのですね。

岡本孝志氏:私は、このプロジェクトの一番の目的は「障がい者の自立支援」だと考えています。障がいを持った方が、自らの力で生きるためのお金を稼げるようにすること。それが本当の自立支援だと思っています。

農福連携は、農家目線に偏ると「安い労働力の確保」が目的になってしまいます。一方、障がい者をお客様扱いしてしまうと、単なる農業体験に留まってしまう。だからこそ、農家にとってプラスの働きを提供しつつ、無理のない範囲で稼いでもらう。人手不足の解決と、自立支援のバランスは常に意識しています。どこかが無理をすると取り組み自体が続きません。「三方よし」の実践が何より重要なのです。

オキスでは、自社商品である乾燥野菜の製造工程でも障がい者が活躍しています。最初は正直なところ、経営者として不安がまったくなかったと言えば嘘になります。しかし一緒に働く社員が、彼らの特性や接し方を理解し、得意分野を伸ばせるようにサポートしてくれました。おかげで、今では私たちの事業に欠かせない戦力になっています。この経験は、今回のプロジェクトでも大いに活かされています。

岡本雄喜氏:農福連携という言葉自体、まだ社会にそこまで浸透しているとは言えません。このプロジェクトをきっかけに、少しでも農業関係者以外にも知ってもらえたらと思います。まずは啓蒙段階として、きっかけになれれば嬉しいですね。

社会課題を事業で解決し、半島を元気に

オキスの今後のビジョン拡大イメージ

——最後に、今後の展望について教えてください。

岡本孝志氏:まずは、小いもの提供先をもっと広げていきたいですね。例えば子ども食堂にも提供すれば子どもたちの居場所づくりにも貢献できますし、学校給食に導入してもらえれば食育にもつながる。夢は広がります。

また、現在ではうつなどから精神障がい者となる人が増えています。引きこもりも増加傾向にあり、大隅半島だけでも数千人いると言われています。保護者も高齢化している中、誰かに面倒を見てもらわなくても生きていける、本当の自立ができるように支援しなければいけません。そうした方々の回復の兆しになる手助けや、社会復帰の足がかりとして、できることはまだまだたくさんあると思います。

岡本雄喜氏
オキスでも、うつや引きこもりから社会復帰のきっかけを探る人たちを受け入れています。これまで10名ほど一緒に働いており、ここから就職していった方もいれば、自社で正社員になった方もいます。回復できる環境、自立できる環境をどう提供できるか。それを私たちだけでなく企業や行政を巻き込んで考えていきたいと思っています。

岡本孝志氏
16年前に策定したオキスの経営理念に、「郷土を元気にする」という言葉があります。私たちは、大隅半島や鹿児島の社会課題を解決したいと本気で考えているのです。そのためにも、自社だけで孤軍奮闘するのではなく、さまざまな団体と連携して影響範囲を大きく広げることが重要です。社会の課題を事業で解決し、「三方よし」のビジネスを生み出すことが地域を変える力になる。今後も、関わるすべての人が幸せになれるような取り組みを考え、広げていきたいですね。

まとめ

学生時代にボランティアに参加した際、「経済的な自立なしに真の自立はありえない」と痛感したという岡本孝志社長。労働人口の減少が進む日本において、農業と福祉双方の課題を解決する仕組みは今後ますます必要とされるでしょう。みなさんもスーパーに並ぶ野菜の裏側にどんなストーリーがあるのか、想像してみてはいかがでしょうか。

【ライター情報】浅野 翠
早稲田大学文学部卒業。人事として新卒採用や制度企画に携わったのち、広報・ライターに転身。現在は上場企業の広報として勤務する傍ら執筆を行う。興味のあるテーマは、キャリア・健康・SDGsなど。

監修者によるコメント

堀口 正裕

㈱第一プログレス代表取締役社長 / TURNSプロデューサー

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農福連携は、私たちのメディア事業でも注目する取り組みです。 フードロス問題については規格外の廃棄対象の作物の有効利用が叫ばれますが、生産者にとって一番嬉しいのは主力商品がしっかり消費されることです。しかし、大量に廃棄される規格外野菜が販売される過程において障がい者の自立支援に繋がる仕組みが作れることは生産者にとって新たな仕事のやり甲斐、生き甲斐にも繋がる有意義な取組みになり得ます。 今回のポイントは農業法人である株式会社オキス自らが旗を振られ様々な団体と連携し、ビジネスの力で農業・福祉双方が抱える課題解決を実現し関わる全ての人がwin-winになっていること。こうした地域に根を張る事業者の真摯な取り組みは、農福連携の実現のみならず、都市部の志ある若者の心を動かし就職を希望するケースに繋がります。上記のような繋がりから地方を元気にする様々な可能性が生まれることを期待したいと思います。 全国各地で抱える課題解決の大きなヒントになり得る株式会社オキスの取り組みにご注目下さい。

堀口 正裕

㈱第一プログレス代表取締役社長 / TURNSプロデューサー

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総務省地域力創造アドバイザー、国土交通省が進める二地域居住等の推進に向けた有識者委員、地域づくり表彰審査会委員を務める他、地域活性事例に関する講演、テレビ・ラジオ出演多数、全国各自治体の移住施策に関わる。 東日本大震災後、これからの地方との繋がりかたと、自分らしい生き方、働き方、暮らし方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから、2012年6月「TURNS」を企画、創刊。「TURNSカフェ」や「TURNSビジネススクール」等、地域と都市をつなぐ各種企画を展開。地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。 TOKYO FM『Skyrocket Company』 内「スカロケ移住推進部」、TBSラジオ「地方創生プログラム ONE-J」ゲストコメンテーター