2022.12.23
SDGsの理念である「誰ひとり取り残さない」社会を目指す、人材紹介サービスSangoport。
Sangoportは、就職において社会的ハードルを感じている求職者と、組織の多様性に注力する企業をつなぐ採用マッチングプラットフォームを提供。さまざまな方が働きやすく、より活躍できる社会を実現するため、サービスを通してDEI※の推進を目指しています。
(※DEI:Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の略)
少子高齢化の進む日本において、潜在的な求職者の就業チャンスが広がれば、労働力不足という社会課題の解決にも大きな期待ができます。
Sangoportを運営する株式会社SAKURUG代表取締役の遠藤洋之氏(以下、敬称略)に、DEI推進の取り組みについて、お話を聞きました。
——Sangoportはどのようなサービスを提供しているのでしょうか?
遠藤 Sangoportは、DEIを推進する採用マッチングプラットフォームです。仕事を探しているさまざまな境遇にある方と、活躍できる環境が整っている企業をつなぐサポートを提供しています。
サービスの最大の特徴は、求職者の対象を、時短で働く主婦・主夫、経験35年以上のシニア層、LGBTQ+と呼ばれるジェンダーに悩みを抱えている方々に特化している点です。
「はたらくに寄り添い、はたらくで前向きに」を合言葉に、性別や年齢などの境遇に関係なく、自分に合った働き方で、ひとりひとりが活躍できる社会を目指し、サービスを展開しています。
さらに、PWYW(Pay What You Want)方式を採用していることも大きな特徴です。
——PWYW方式とはどういった仕組みか教えてください。
遠藤 マッチング成約時の紹介料を、あらかじめ設定された金額ではなく、企業側が自由に決めるという仕組みです。
企業がSangoportに求人を掲載するにあたり、初期費用と掲載費は無料となり、さらに成果報酬金額については企業側が決められるPWYW方式を取り入れたことは、人材紹介業界では初めての試み※です。(※株式会社SAKURUG調べ)
企業は、より低い採用コストで優秀な人材を雇用することができ、求職者にとっても、就業機会の創出につながるというメリットがあります。
PWYW方式を採用した背景として、「善意でまわるビジネスモデルにしたい」というアイデアが先にあり、それが「PWYW」と呼ばれるものであることは後から知りましたが、Sangoportの目指す世界観やDEIの概念であるEquity(公正性)とも親和性のある仕組みだと考えています。
——株式会社SAKURUGは2012年の創業時からインターネット広告事業を主軸とされてきました。2019年から新たに人材サービス業に進出した経緯について教えてください。
遠藤 私たちは「ひとの可能性を開花させる企業であり続ける」をビジョンとして掲げています。
創業から5年目の2017年、ビジョン経営に舵を切るため、社内合宿やミーティングを重ね、数か月かけて全社でビジョンの策定に取り組んだところ、社員全員が「ひとと関わること」が好きで、「ひとと関わり続けたい」という想いが一致しました。それから会社の成長が加速していき、広く「ひと」に関わる業務としてHR領域への進出がボトムアップで進みました。
——Sangoportは2021年11月にリリースされました。何かきっかけはあったのでしょうか?
遠藤 Sangoportは、当時入社3年目の社員が新規事業として企画しました。先行しているHR事業がうまくいっていたこともありますが、私がSangoportの構想に賛同し、挑戦を決断できた理由は大きく3つありました。
1つ目は自分の幼少期の体験です。家庭環境があまり良好ではなく、両親が仕事で忙しく留守がちでした。自分のようなさみしい思いをする子供を減らしたいと常々考えていました。
弊社の社員約90人のうち、約4分の1が時短で働く母親です。私自身にはまだ子供はいませんが、子育て世代の社員に対して理解と共感の気持ちから、早退や欠勤などに柔軟な対応を心がけていたところ、社員から「子供との時間がとても増えた」という喜びの声があがりました。自分の原体験からの姿勢は「家庭と仕事の両立」ができる働き方の解決につながると感じました。
また、弊社の監査役として今も働いている当時75歳の社員から受けた影響もありました。オンラインミーティングなどの現代流の働き方に戸惑いながらも、一生懸命かつ柔軟に取り組み、非常に優秀な社員です。彼のような、企業にとって成長の要といえる人材の可能性を、年齢だけを理由につぶしたくないと思いました。
もうひとつのきっかけは、実際に自分の周りにLGBTQ+と呼ばれる方がいて、就職や仕事を続ける上での悩みがたくさんあると耳にしていたことです。
実際に、主婦・主夫やシニア、LGBTQ+の方々など、現在、社会で見逃されている「働きたいのに働く機会に恵まれていない」就職希望者は1,000万⼈近くにも及ぶと言われています。採用する人材の領域が広がることで、日本の慢性的な労働人口不足という社会課題の解決にも貢献できると考えました。
——公的・民間含め、既存の人材紹介事業は多くある中、Sangoportの強みはどこにあると考えていますか?
遠藤 「ママさん」やシニアなど、それぞれ個別のターゲットに特化した求人サービスはたくさんありますが、私たちの強みは、対象を限定せずにDEIを意識した幅広い対応をしている点です。
広く展開するメリットは、新規の顧客獲得単価が下がることです。
例えば、社会的意識が高く、雇用に対しても柔軟な企業は、「時短での働き方やシニアは受け入れるが、LGBTQ+はダメ」というケースはほぼありません。ある特定のカテゴリーに対しての理解が遅れている企業に対しても、きちんと説明をすれば問題なく受け入れてもらえ、良質な求人先として、マッチングも増えていきます。
今後、社会の風潮や企業側の理解が進むにつれ、これまで企業側にとっては未開拓だった領域の求人数は大幅に増加すると期待でき、求職者にとっても大きな可能性があります。
企業側と求職者側の可能性や価値観という「質」に、より重きを置いたマッチングができることは、Sangoportの大きな強みです。
——DEIを推進するサービスを展開する中で、どんなところに課題を感じていますか?
遠藤 実は、私たちが企業にDEIを啓蒙するということはほとんどなく、「世の中の大きな力学」によるところが大きいと感じています。
全く潮流がないところに、私たちが流れを作ったり、変えたりというよりも、今の「サステナビリティ」への動向を見極め、より多様な人材を活用したいと考えている企業の困りごとや悩みを解決するサポートを行うのが私たちの役割です。
国の制度で多様性のある人材雇用数に対して「数値目標」が設けられることについては、良い面と悪い面があると感じています。全体の意識を変えるためには、分かりやすくインパクトを示す意味で数字は効果的ですが、数値目標だけを追いかけて、取り組みが表層的になってしまうのは本末転倒です。
私たちは企業のDEI推進が形骸化しないよう、採用面だけでなく、組織づくりの観点からもサポートするため、研修プログラムの導入支援なども行っています。
——Sangoportの今後の展望をお聞かせください。
遠藤 現在は求職者の対象として、主婦・主夫、シニア層、LGBTQ+に特化していますが、今後は外国籍の方やハンディキャップを持っている方、中卒・高卒の方や地方在住者などにも対象を広げ、DEIの推進をさらに進めていきたいと考えています。
また、中期的目標として、Sangoportのグローバル展開も目指しています。
今夏には、「Sango Career Development」というプロジェクトを立ち上げました。
出産、育児、パートナーの転勤などのライフステージにおけるさまざまな事情によって一度キャリアを離れた方や、キャリアチェンジ・キャリアアップしたい方を対象とした再始動支援プログラムで、有給で数か月のインターンシップを提供し、職場復帰をサポートするという取り組みです。
日本は先進国の中でもインターンシップのシステムが非常に遅れていると感じています。
これまでにも私たちは高校生やシニア向けの職業体験・訓練型のプログラムを提供してきました。
今後も、「働くことは楽しい」、「何歳になっても学べる」と思ってもらえる機会を提供していきたいと考えています。
さらに将来的な展望として描いているのは、SAKURUG DEI Townという街づくり計画です。
私自身がもともと教員志望だったこともあり、「みんな違ってそれでいい」という思想を、若い世代にもっと実感してほしいという想いがあります。
例えば、私たちの専門分野でもあるクリエイターやエンジニアに特化した高専を作り、スポーツやアートなどの文化的リソースも活用して、街全体でDEIの推進を目指すような構想です。
採用マッチングサービスにとどまらず、さまざまな学びの場を提供することで、社会へのDEI浸透をさらに加速していきたいと考えています。
【まとめ】
ESG投資の広がりにより、投資家は企業に対して財務パフォーマンスを重視する傾向から、社会貢献性などの企業価値を求める方向にシフトしています。また、企業のDEI推進は、組織に多様性をもたらすだけでなく、今後の予測不能な時代を生き抜くためのイノベーションの機会や、社会の変化に対応する柔軟性を生み出す効果も期待できます。
一方で、寿命の高齢化や、働き方・価値観の多様化により、働き手の仕事に対するスタンスは今後さらに個別化が進むと考えられ、ニューノーマル時代における仕事のあり方や探し方は、今後もさらに変化することが予想されます。
どんな境遇にあっても「可能性を開花」でき、「はたらくことで前向きに」なれる人材マッチングサービスを提供するSangoport。労働人口不足という社会課題の解決のみならず、すべての人がいきいきと活躍できる社会の実現を目指し、DEIの推進に取り組んでいます。
【ライター情報】幸田さおり
東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。生活者目線でわかりやすく伝えることをモットーに、サイエンス領域や時事ニュース解説記事などの執筆を中心にライターとして活動。
大塚 泰正
筑波大学, 人間系, 教授
個々人が仕事で能力を発揮するためには,誰もが組織の中でかけがえのない存在であると尊重され,互いに礼節を持って接することが重要です。このような職場で働く人々は,過剰に無理をすることもなく,他人に対して率直な意見を述べることができ,周囲の人々に思いやりを持って接することができるようになるでしょう。少し飛躍しますが,職場を家庭に例えてみましょう。家庭の中にもさまざまな特徴を持った人がいますが,家庭がどの人にとっても自分らしくいられる安全な基地となっていれば,そこで生活する人々は,人を信頼し,人を思いやり,自分の可能性を信じてさまざまな活動に積極的に取り組めるようになります。SAKURUGが提供するDEI推進型採用マッチングプラットフォームSangoportは,居場所感のある安全な「職場」という新たな場を多くの人に提供し,人に対する信頼や善意を広げることができる可能性の高い,とても有意義な取り組みであるといえます。
大塚 泰正
筑波大学, 人間系, 教授
2022年8月 – : 筑波大学, 人間系, 教授
2015年度 – 2022年7月: 筑波大学, 人間系, 准教授
2009年度 – 2014年度 : 広島大学, 大学院教育学研究科, 准教授
2007年度 – 2008年度: 広島大学, 大学院教育学研究科, 講師
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